あらけんの引き出し

とある男子大学生の勉強目録

【考察】"言語習得の限界" 臨界期仮説と日本の英語教育について

はじめに

 このブログの最初の記事として、私がドハマりして勉強したテーマを紹介したいと思います。

それは「言語学習の限界」というものです。

このテーマについてレポートも書いたこともあるが、相当熱を持って勉強をした記憶があります。

その程度としては、高校に在学しながらも、かつて大学で講師をやっていた経験もあるという方にもアドバイスをもらったほどです(笑)

 

今では英語学習は義務教育にも組み込まれているし、どうせ勉強するならペラペラになりたいと思うのが多くの人の意見だと思います。

しかし、世界と比較すると、日本人は英語が苦手とか言われたりもしています。

もし、それが根本的に現在の日本の英語教育が原因だったらどうでしょうか。

最近では、文科省も教育面で様々な改革を考えているみたいです。

次章では、そのなかの1つを紹介したいと思います。

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近年の英語学習改革

 最近の教育界の改革として、小学校に”教科”としての英語を導入することが決定したことはご存知でしょうか?。

まず、今回決定した”教科として”とは、どういう意味なのでしょう。

 

 これは単純に言うと、小学生に単語や文法などを教え、テストを含めた英語教育を行うというものです。

要するに、中1からの学習内容を前倒しして行うということらしい。

ちなみに、以前までの初等英語教育はと言うと、私の母校の小学校では、簡単な英単語を混ぜた歌を歌った記憶があります(当時、当然ながら英文の意味はほぼ理解していない)

このように、これまでの初等英語教育は遊びのような側面が強いです。

それに対して、”教科としての英語”は小5ぐらいから始まり、文法などのガチガチの英語教育を行います。

小学校の遊び盛りの段階から、もう英単語を覚えさせられるのか!?って感じではあるけど、なぜ英語教育は早まることとなったのでしょう。

この背景には、言語習得における「臨界期仮説」という1つの仮説が強く関わっています。

 

臨界期仮説って何?

 臨界期仮説とは、簡単に言うと、”人間には言語学習を行うべき時期があり、それが過ぎてしまうと言語学習が著しく困難になる”という仮説です。

つまり、私たちは生まれてから成長と共に第一言語母語)を身に着けたから苦労をしなかったが、もし言語学習が大変だと感じるなら、それは言語習得可能な臨界期を過ぎたからだと主張するものです。

その根拠としては、親の虐待の影響で野生で育ったジーニーという少女が母語習得を幼児期を過ぎてから行ったものの、習得できなかったという研究データがあるということ。

つまり、母語は成長と合わせて習得されるのがベストのようです。

よく考えれば当たり前なのだが...

 

 これは、第二言語学習でも同じことが言われています。

とあるイタリア人移民を対象とした実験では、大人になってから言語学習をすると、発音に強いアクセントが残ることが発表されました。

他の研究データも加味すると、どうやら大人になるほど文法習得は得意になるらしいが、発音習得の面では不利になってしまうようです。

個人的な意見にはなるが、帰国子女のような幼少期を海外で過ごし、複数の言語を話す人達が言語習得に苦労したという話はあまり聞きません。

文科省はこのことを考慮して、英語学習の開始時期を早めたような気がします。

やはり、現在の日本の英語教育の開始時期は遅いのでしょうか。

 

多くの言語学者たちの現在の見解

 実際のところ、今の時点で臨界期仮説が証明されたわけでもないし、否定されたわけでもありません。

確かに研究結果として理に適うデータも多いが、現在も明らかになっていない点も多くあります。

しかし、学者たちの間で一般的に言われている見解はこういう感じ。

  • 第一言語母語)は、幼児期~幼少期に成長とともに習得するのが良い。

  •  第二言語学習は、思春期以前に学習を始めると効果が出やすい。 

読者の方々は、この見解に対してどう思いますか。

英語の教職履修者として考察してみる

 結論から言うと、私は小学校に英語科目を導入することには賛成だと考えています。

仮に臨界期が存在するのであれば思春期以前に学習を始めるのは良いことだし、何より英語の学習時間が2年増えることは単純に学習効果が出ると思います。

それに、勉強は継続することが大切。

思春期以前から英語という海外の文化に触れることで、より海外や他言語を近い存在に感じてもらうことができるかもしれません。

そもそも、学習を継続させるためには、強制力ではなく自主性が重要であるため、海外に対して興味、関心を持ってもらうことで長期的、自主的な言語学習を促すことも期待できます。

 

しかし、注意したい点も1つあります。

小学校の教科としての英語は、中学の英語教員免許を持つ者が教えることになります

そのため、中学の英語教員の仕事がさらに増えることは目に見えています。

ただでさえ、授業、部活、地域活動など、多くの仕事が重なるブラックな職業だと言われている中学教員。

彼らの働き方を改めて見直す必要もあると思います。

 

読者の方々は、日本の英語教育改革に対して、どう思いますか?

「小学生は母語である日本語をまず習得すべきだ」という意見も理に適っています。

一人ひとりが違う考えが出すのが、大学の勉強の面白いところ。

読者各々の英語学習の経験なども踏まえた上で、これからの日本の英語教育はどうあるべきかを考えてみてください。

 

参考文献

・Kaplan, Abby.(2016)”Adults can’t learn a new language,” Chapter 6 in Women Talk More Than Men...and Other Myths About Language Explained. pp.111-128, Cambridge, United Kingdom: Cambridge University Press

・今井むつみ(2010)『ことばと思考』岩波書店

・北村崇朗(1989)『こんなに勉強してるのになぜ英語ができないの』草思社

・黒田龍之介(2013)『ぼくたちの外国語学部』三修社

・斉藤兆史(2003)『英語達人塾 極めるための独習法指南』中央公論新社

・白井恭弘(2008)『外国語学習の科学 第二言語習得論とは何か』岩波書店

鈴木孝夫(1990)『日本語と外国語』岩波書店

・バトラー後藤裕子(2015)『英語学習は早いほど良いのか』岩波書店

・広瀬友紀(2017)『ちいさい言語学者の冒険:子どもに学ぶことばの秘密』岩波書店

・正高信男(2001)『子どもはことばをからだで覚える』中央公論新社